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2019/08/31

勉強会レポート「はじめての特許戦略〜スタートアップ・ベンチャー企業の知財戦略について〜」

今年の春から月 1 で開催している、投資先向けの勉強会。
いい名前が思いつかないので「たつおゼミ」と暫定的に呼んでいるのですが、毎回スペシャルなゲストの方を講師としてお呼びして、「はじめての〇〇」というタイトルで各分野の基礎的な内容を教えていただいています。

今回は、「下町ロケット」のモデルになったことでもお馴染みの弁護士法人 内田・鮫島法律事務所に所属する弁護士・弁理士の杉尾雄一さんに、「はじめての特許戦略」というテーマで、スタートアップ・ベンチャー企業の知財戦略についてレクチャーしてもらいました。


先に学びと感想から書きます。
  • 特許について思っていたよりもかなり早いタイミングから考え始めたほうがいい
  • 必ずしも研究開発型のスタートアップでなくても、ビジネスモデルと UI みたいなもので特許とれたりする
  • ファイナンスやアライアンスなんかでも価値を付加してくれる
  • なので、特許・知財戦略を「ちゃんとやらない機会損失」はかなり大きい
  • 特許をただとるだけでなく、どのような特許をとるのかという戦略が大事
  • だからスタートアップの文脈や技術に理解の深い弁護士・弁理士と組むことがクリティカル

こんなところです。

ぼくの服は著作権を侵害している疑いがあります

ここから講義の内容を書きます。
資料もいただいたので、欲しい方はここからダウンロードしてください。


昨今、ベンチャー・スタートアップ界隈で、以前よりも特許が注目されてきている。

理由としては、従来の「後発・競合に対するバリヤーを作る」「ライセンス提供することで収益を上げる」という目的に加えて、特許があることで「ファイナンス (M&A, IPO,  資金調達) にポジティブに働く」「大企業とのアライアンスに有利になる」といった側面が事例とともに知られ、活用されるようになってきているから。

より特許が多く出てる業界、あまり出てない業界みたいなのもある。
最近だと HRTech 系が多く出てるらしい。

もう少し詳細に知財戦略の位置付けを説明すると、EXIT (IPO/M&A) のためには企業価値を向上させる必要があり、それには知財権の取得が主に
  • 競業の参入障壁を構築できる
  • アライアンスの材料になる
  • マーケティング等に役立つ
という3つの観点で寄与してくれる。


しかも、ゆーほどコストがかかるわけでも、難しいわけでもない

とはいえ、まだまだ特許戦略が機能している会社は多くないと考えられる。
例えば、梅木氏の「THE STARTUP」に掲載された「2014 年に億単位の資金調達をした 100 社」を見ると、2018 年時点でまだ特許出願件数 0 という会社が約半数。


ここから事例紹介。

(1) GAFA や Uber など、IT 領域・プラットフォームサービス


Google, Amazon, Facebook, Uber など、いずれも会社設立から 1-2 年以内というタイミングで特許出願を行い、その後も継続して出願している。
Amazon の最初の特許申請はなんと会社設立前。


特許は新規性がなければ取得することができないため、先行技術が少ない段階であればあるほど、広くつよい特許を取得できる。

ベンチャー企業が知財戦略をスタートするタイミングとしては「ビジネスモデルが確立できたタイミング」がよく、その時点で基本特許の出願を検討する。
続いて「コア技術が確立できたタイミング」で基本特許 (+改良特許) の出願を行う。
「プロダクトが完成したタイミング」以降も引き続き改良特許の出願を行うのがよい。
 

上記を少し解説する。
理想的な知財戦略は、まず「強さ (新規性)」はそれほどでもないが「広さ (独占できる範囲)」が広い【基本特許】を取得し、その後に「狭い」が「強い」【改良特許】をとってポートフォリオを固めていくというやり方。

【基本特許】を取り損ねてしまった場合は、【改良特許】を数多く取得して防御線を固めるしかないが、どうしても隙間から他社が参入可能になってしまう可能性が出てきてしまう。


ちなみに、特許は基本的にグローバルで共通で、世界的に新規性があるものでしか特許はとれない、なので世界中の企業と競争をしているとも言える。

ただし、日本語で出願しておけば、海外で出願するのが後からになっても日本の出願日が適用される。
(パリルート、PTCルートという2つのやり方があり、コストが若干高いがメリットがあるため後者が選ばれることが多い)

(2) 特許が参入障壁として活用された事例① - Amazon 1-click 特許


Amazon にとって 3 件目の特許で、創業の 3 年後に出願され、出願の 2 年後に成立。
成立した翌月には、出願時点より後に開発されていた競合のサービスの訴訟を行い、年内に差し止めを成功させている。
また Apple にもライセンスを許諾している (収益を上げている)。

この特許が優れている点は、サービスを磨き上げる過程で出てきた、シンプルなんだけど、そのビジネスモデルでは使わざるを得ないような特許であるというところ。
Appleがライセンス提供を受けていたり、差し止めの仮処分が認められていることから見ても、1-click 特許は回避不可能なものだと思われる。

  • 「カゴ落ち」という大きな問題を解決できる
  • EC で同様の優れた UX を実現させるには回避不可能なぐらい広い
  • その後も開発・特許取得を継続している
なので、Amazon の売上拡大にこの特許が寄与していると考えられる。

ちなみにソースコード書く前でも出願はできる (アイデアだけでもできる)。
また、先に出願はしておけば防衛はできるし、出願から 1.5 年は公開はされない (ので、すぐに改良特許を他社に出されてしまうという心配もない)。


(3) 特許が参入障壁として活用された事例② - マネースクエア vs 外為オンライン

いずれも FX のサービス。マネースクエアが老舗で、原告。
売買の注文を入れるときの UI で、何の情報を表示・入力させているか (利幅と値幅) という内容の特許をマネースクエアが取得していた。


外為オンラインの売買注文 UI では、購入金額と販売金額を入力させているだけで、「利幅」「値幅」の数値を直接入力させているわけではなかった。


解釈は地裁と高裁でわかれた。
地裁では特許非侵害とされたが、高裁では「この画面やったら、値幅や利幅を示す情報を入力して注文している、と解釈できるやろ」ってことで特許侵害という判決が出た

この事例からの学び
  • 特許申請時のワーディングがけっこう大事になったりする (権利範囲が変わってくる)
  • 弁理士よりも、ビジネスや開発を実際にやってる人のほうが、いろいろなケースを想定できるという面もある。
    • なので経営陣と弁護士・弁理士がチームを組んで、十分広くて強い申請内容を考えたほうがよい
  • 日本の裁判所は諸外国に比べ、特許をビジネス戦略に使うのに不向きと言われている 
    • 非侵害と言われがち、罰金が低い
  • なお特許侵害の立証責任は基本的に原告側にあるが、フタ開けてみないと分からないケースもあるので (コードの中身、工場内部のオペレーションなど)、請求が70%ぐらい合理的だと判断されると被告側が非侵害を立証しないといけなくなる
    • 来年の特許法改正でちょっと立証しやすくはなる
    • アメリカだとディスカバリーといって、被告が全部反証しないといけない

(4) 特許ポートフォリオの構築 - One Tap Buy の事例

One Tap Buy は日本初のスマホ証券。
創業者の林さんは One Tap Buy の前に創業した会社で、特許とらずにビジネスやっていて失敗した (ぱくられまくった) 過去がある。

One Tap Buy には代表的な機能が 7 つあり、主要機能についてそれぞれ特許をとっている。
それにより競合の機能開発を制限・牽制できている
各特許の詳細はスライド参照。

 
UI 特許として回避不回避で、侵害検出性も高い (誰かが侵害していたら見てわかる)。

(5) アライアンスの材料として活用された事例 - オプティム

2019 年 6 月時点で 356 件の特許を出願している (日本国内のみ)。
社長が発明王みたいなひと。

佐賀大学・佐賀県や佐賀県警 (佐賀ばっかww) との業務提携において、スタートアップでも特許を保有していたことがパートナーとして採択されたのに寄与したと考えられる。

例:ウェアラブル端末つけて農作物を見ると、収穫時期を予測して AR で表示する技術


  • すべての条件を満たしてはじめて特許侵害になる
  • 「色およびサイズ」より「色またはサイズ」にしておいたほうが本当は広かったよね (もっというと「画像から識別できる情報」、のようにより一般的な形で書いておくとか) など、改良の余地がある特許のようにも見える
  • ただ、それで認められるかどうかは未知数 (申請してみないとわからない)

(6) M&Aの事例 - カブク

創業からの歴史と特許
  • 2013 年 創業
  • 2014 年 シード調達 (val 2億円)、特許出願1件
  • 2015 年 シリーズA (val 7.5億円)、特許出願1件
  • 2016 年 特許出願 5 件
  • 2017 年 13.55 億円で双葉電子工業にバイアウト (90%)、特許出願5件

資金調達や EXIT (M&A による) に少なからず特許が寄与した、とカブクの経営陣自身が語っている。
どれぐらいの価値貢献をしたのだろうか?

特許の価値評価には、コスト・マーケット・インカムという3つのアプローチ手法がある。
実務的には、インカムアプローチのうち「ロイヤリティ免除法」(将来のロイヤリティ収益の現在価値) で評価されるケースが大半。

まとめ

特許を、ベンチャー起業の経営資源の1つとして活用しよう!

タイミングは早いほうがいい (広く、強い特許がとれる)
かかるコストは 1 件 50 万円ぐらい (どの事務所でもあまり変わらない、相場形成されている)

目標・目安とすべきステージごとの件数
  • シードで 1-3 件 (基本特許、重要機能)
  • シリーズ A で 3-7 件 (重要機能)
  • シリーズ B 以降で改良特許を順次

特許戦略に取り組む体制
  • ベンチャー側からは CEO と CTO
  • 弁護士・弁理士のチームを外部から

こんなかんじです!


【参考】
過去の勉強会の記事、メモ
  1. はじめてのマネジメント by リクルートマネジメントソリューションズ 奥野さん
  2. はじめてのマーケティング by Moonshot 菅原さん
  3. はじめての営業管理 by メドレー 田中大介さん

2019/01/27

Moonshot菅原健一(すがけん)さんにBtoBプロダクトの営業・マーケティングを教えてもらったよ

前回の記事でも書いた通り、2 月からはまた海外のサービスの日本展開を日本第一号メンバーとしてスタートします。

AppLovin とはちょっと業態が違う、マーケティング領域のプロダクトなのですが、アドネットワークみたいに「こういうクライアントや代理店に、こういう価値を訴求すれば売れるはず」というのが自分の中でイマイチ見えてなかったんですよね。

なので先週、Moonshot菅原 健一 (すがけん) さんにお時間をいただいて、色々アドバイスを伺ってきました。
この投稿はその内容をまとめたメモです。

すがけんさんの言葉を僕なりに咀嚼したものなので、表現が正確でなかったり、分かりにくい (僕にしか分からない) 箇所もあるかと思いますが、そういうもんだと諦めてください。

すがけんさん、界隈で知らない人はいないと思うけど一応紹介します

菅原 健一さん (@xxkenai)

株式会社Moonshot - founder & CEO
元 SmartNews ブランド広告責任者 (Head of Brand Advertising)
元 Supership CMO, mediba CMO, ScaleOut CMO

最近は「#20代マーケピザ」を通じて次の世代のマーケターを育成したり、なかなか表沙汰にしづらい広告不正の問題について発信したり (連載「デジタル広告に迫る危機」) と、広告業界全体に貢献・還元する活動を積極的にされています。

株式会社Moonshot (note)

2018年7月1日創業
企業の "10倍成長" を支援するアドバイザー業

なんですがけんさんに話を伺おうと思ったのか

1 年前、ICC サミット FUKUOKA 2018 で「動画メディア時代のブランディング広告はどのように進化するのか?」というセッションでご一緒させてもらいました。

また約半年前、AppLovin として初めてアドテック東京にブースを出展した際、すがけんさんが「出展アドバイザー」をされていたので、ブースでやるコンテンツについてガッツリ助言をしていただきました。
 
そんなこんなを通じてコミュニケーションする中で、特にすがけんさんが SmartNews でやられていた活動、すなわち、単なる imp, click 売りではない "新しい広告価値" を創造・定義し、セールスし、スケールさせたというのが、マジですげえ (語彙力) と思ったんですよね。

その過程ですがけんさんが何を考え、どう行動し、そこから得られた「再現性がありそうな知見」を学べれば、「価値はあるんだけど、まだ一般の人が知る・信じるところまでは至っていないプロダクトやサービス」のビジネス展開をする時に、きっと活用できるはずだ、と。

以下伺ったお話のメモです


「成功のためにクライアントの努力が必要なプロダクト」の売り方


普通のサービスの場合は、相手に購入の意思決定をさせたら営業としてはミッション完了。

ただしマーケティングオートメーションを含む SaaS 系のプロダクトの場合、多くは、実はクライアントは購入後が大変になる。
プロダクトを使って「ビジネスを伸ばす/コストを下げる」努力をしないといけないから。

時には、担当者をアサインする、組織を変更する、業務プロセスを作る/変える、といったことも必要になる。

つまり、クライアントから見ると「フィーの支払い」と「成功確率」が比例していないわけで、頭の回転が早いクライアントはそのことに気づく。

なので、"成功可否を決めるドライバー" をクライアントに丸投げするのではなく、サービスの側もクライアントの事業の成功にコミットし、そのことをコミュニケーションするのが大切。
例えば、ツールだけではなく運用までサービス側で巻き取る (有償無償はさておき) というのも、有効なアクションの 1 つ。

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セールス初期からスケールさせるまでの動き方


最初は取引規模が大きくなるところからアタックしたほうがいい。
  • 理由1: 大きいところのほうがレバレッジがきく (同じ課題でもサイズ感が大きい (より深刻) 場合が多かったり、より早く大量のデータを溜められたり) ので、成功させやすい
  • 理由2: 小さくて上手くいっていないところは、大きくて上手くいっているところのやり方・ノウハウを知りたいと思っている

最初は代理店ではなく直接クライアントに話しに行ったほうがいい。
  • 理由1:そのプロダクトが解決する課題を感じているのはクライアントであって、代理店ではない (代理店はまた別の課題を抱えている)
  • 理由2: 最初から代理店経由だと、思った通りにプロダクト使ってもらえないということになりがち

どんなクライアントに最初に当たるべきか?
  • 売りこむ「価値」とは、「そのプロダクトが起こす (相手にとっての) 変化量」
    • 例えば SmartNews の場合は「広告が見られる」から「広告がちゃんと読まれる」という変化
    • RIZAP の価値は「痩せる」ではなく「自信を持てる」
      (トレーニングの内容等は一切 PR していない)
  • 1 社でもいいのでそれに賛同してくれるクライアントを見つける
  • 課題が (組織としてでも、担当者の中ででも) 顕在化しているクライアントが良い
    • 言われてはじめて「あー確かに」ってなる程度の人は、あんまり採択してくれない

価値の伝え方のちょっとした工夫
  • 「こうやれば今より 2 倍儲かるよ」といった、アップサイドのアピールは意外と受注に繋がらない
  • 「これやらないと、このままだとマズいよ」というトークのほうが効く
    • 現状維持したい、損を回避したい、といった意識のほうが強く働く
    • 特に日本 (例えば中国とかは、グロースさせたいというマインドがずっと強い)
  • 営業資料にも「このプロダクトを使わなかったときに訪れるであろう、望ましくない未来」を描いたほうがいい

そうやって成功事例が出来たらそれをマーケティングする。
キーワードは「成功者をつくる」
  • 自社プロダクトの良さを自分でアピールすることはあまりしない
  • クライアントの活動、導入・運用して成功に導いた人をフィーチャーする
  • そのプロダクトが新たに市場に提案する「価値」を最初に見出した「先駆者」という名誉
  • 担当者がそれで出世したり表彰されたりすると最高

マーケティングのチャネルで、効果が高いのに後回しにされがちなのがリアルイベント。
  • 例えば記事が 1 つ何千 PV とかあったとしても、そこからコンバージョンに至る率はとても低い
  • "ちゃんとやれば" だが、リアルイベントの CVR は高い
  • そこで業界トップクラスの方にブッ刺せば、そこからの口コミも期待できる
  • SmartNews で 2017 年にアドテック東京をスポンサーした際は、スポンサー費用数千万円の約 2 倍の受注を、イベント後 30 日ほどであげることができた
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企業の活動は「価値の創造」と「価値の証明」だけ。

価値とは「相手の変化量」
価格は「価値をベースに決める (原価じゃない)」

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すがけんさんの最近の活動「#20代マーケピザ」や、広告不正に対する問題提起 (連載記事はこちら) といった活動について


ピザは自腹だし、記事もすごい時間をかけて自分で書いている。
自分へのリターンはあまり期待できない活動。

30 代でデジタルマーケティング業界に入って (元々のバックグラウンドは実はエンジニアで、モバイル (ガラケー) のコンテンツ業界)、約 10 年お世話になったので恩返ししている。

「悪貨が良貨を駆逐する」のは、リテラシーが低いから起きる。
そうするとエコシステムが上手く回らず、業界全体が悪い方向にスパイラル。
その流れに対して、ぐっと良い方向に押し上げて、いい循環を作りたい。

グローバルでは、例えば P&G が「YouTube への出稿をやめる」 (望まないコンテンツに対して広告が配信されてしまうという問題のため) といったことがある。
そういった「モノ言う株主」のようなアクションをとる広告主が日本には殆どいない。
代理店を使わずインハウスで運用しないといけない、みたいなことではなく、シンプルに取引先をきちんと監督して、ファクト・データをきちんと確認するだけで十分。

小手先のテクニックやバズワードに踊らされるのではなく、目的意識を持つのが大事。
例えば「データマーケティングをやりたい」が起点になってはいけない。
達成したい目的・ゴールから逆算して、そのために必要だから「データマーケティングをやります」なら良い。

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こんなかんじです!
とても勉強になりました & なんか上手くやれそうな気がしてきましたw
この記事を最後まで読んでくださった方にも、何かしら役に立っていれば至極幸いですっ...

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