2016/12/23

担当者に電話すると単価が上がる!?アドネットワークの謎

背景

こんな tweet を見たから。(抜粋)




んでニーズもありそう (見れない方のために: 90% 以上のひとが「ある」と回答。N 数 100 以上)

先に注釈


ぼく自身、前職は Google で AdMob というモバイル広告ネットワークを、現職では AppLovin というモバイル広告ネットワーク (どちらも外資) を広める媒体営業という仕事をしています。

なのでこの post では、特定の広告会社や、国内の広告会社を dis る (それにより自分が担当している/していた広告会社の株を上げる) ことがないように注意して書きます。

そもそもアドネットワークのビジネスとは


  1. 広告主からマーケティング・プロモーション費をお預かりして
  2. 媒体に対して広告を配信して
  3. 掲載費という形で媒体に対価をお支払いして
  4. その間でマージン (手数料) を抜く
というのがビジネスモデルです。

参照元ページはこちら

たとえば、TOYOTA がプリウスの広告を朝日新聞に掲載するときを考えると、
  1. 広告主 (TOYOTA) が広告代理店 (電博とか) に広告宣伝費を払う
  2. 広告代理店が媒体 (朝日新聞) に媒体仕入れ費を払う
  3. 広告主からもらったお金から、媒体に支払ったお金を引いた分が、広告代理店の粗利になる
っていうモデルです。

このケースだと、広告主も媒体も 1 社ずつです。
アドネットワークってのは、超ざっくりいうと
  • 広告主も媒体も "すげーたくさん" あって
  • どの広告をどの媒体に配信するのかってのをシステムがやってくれるもの
です。

モバイル領域だと例えば、広告主は
「おれっちのアプリのダウンロードを増やしたいから、とにかく色んなアプリ媒体に広告を出して、高い効果を出したい!AppLovin さんヨロシク頼むよ!」
媒体は
「アプリにとりあえず動画広告枠だけ作ったよ!どのアプリの広告が出てくるかは任せるから、いい感じに収益性あげといてよ、AppLovin さん!」
っていうことをやっています。

この場合も、広告主からもらったお金のうち、何割かがアドネットワークの取り分になり、残りが媒体に支払われます。
そのシェアは AppLovin も含めほとんどのアドネットワークは公開していませんが、Google AdSense は「68% が媒体、32% が Google」だとヘルプページで公開しています。

なので普通は 3-5 割程度がアドネットワークの手数料だと思っておけば、大外しはしないと思っていいでしょう。
ただし例外はあります (後述します)。

アドネットワークの競争力


ご存知の通り、アドネットワークはもんげーたくさんあります。
ちょっと古いですが、カオスマップという業界地図の日本版 (2014-15) を xAd Japan の近藤パイセンが作ってくれているので、ご紹介します。
参照元サイト

なので、この同じ/近いカテゴリにいる会社同士は、他の会社と激しくシェアを争ってるわけです。
どうやったら勝てるんでしょうか。

広告枠をバナナに例えてみましょう。

そもそもバナナ (広告の配信先) が無いことには、広告主に対して売ることは出来ません。
なので広告ネットワークは、媒体からバナナを仕入れないといけません。

ただし媒体が持っているバナナの数は有限です。
そして媒体はなるべく高くバナナを売って、たくさん儲けたいと思っています。
なので、バナナに高い価格をつけられる広告ネットワークが、仕入れの力が強いということになります。

一方広告主は、同じお金を出してバナナを買うなら、なるべく美味しい (効果が高い) バナナを欲しいと思っています。
また、同じ質のバナナを買うなら、なるべく安く売ってくれるアドネットワークから買いたいと思っています。
そうしたほうが費用対効果 (同じお金をかけて、より美味しいバナナを食べれたかどうか) が高くなるからです。

なのでアドネットワークとしては、なるべく高く媒体からはバナナを買って、なるべく安く広告主にバナナを売らないと、競争に勝てないわけです。
これは大変です。

じゃあどうやって勝つのか。
色々あるのですが、単純化すると 3 つしか答えはないと思っています。

  1. 営業を頑張る
  2. テクノロジで解決する
  3. 利ざやを削る
ちなみに僕の好き嫌いでいうと、1 と 3 は明確に嫌いです。
1 つずつ解説します。

1. 営業を頑張る


ここでいう「頑張る」とは、例えば...

対して収益性が高くないアドネットワークなのに、媒体に対して「うちはどこより収益性高いよ!」「あなたの媒体なら eCPM 1000 円は間違いないよ! (保証はせんけどな)」っていう甘い言葉を囁いたり。

広告主に対して「他のアドネットワークより安くユーザー獲得できるよ!」「どこよりも質が高いユーザーがいる媒体を抱えてるよ!」と吹いてみたり。

そういうやつです。
(あー、あるある)

これは情報の非対称性があるから - つまり、媒体はどのアドネットワークが収益性が高いのか完全な情報は持ちえないし、広告主もどのアドネットワークが効果が高いのかやってみないと分からないから - 成り立っています。

また、実際に媒体/広告主に、複数のアドネットワークを試されると、実力がないことがデータとして露呈してしまいます。

(なのでこういうところは「独占でやらせてください」みたいなことを言って、他のアドネットワークの情報が入らないような策略を練ってきたりします。)

(そんなことしたってこの時代、横の繋がりでいくらでも情報入ってくるのにねぇ)

なので基本的には、次々に新しいお客さんを捕まえては逃げられ...を繰り返すので、焼き畑になってしまい、ビジネスが積み上がっていきません。
ひたすら疲弊するばかりで、本質的にはなんの解決にもならないので、同業者でやってる方がいたら止めておいたほうがいいですよー。

2. テクノロジで解決する


ぼくが唯一好きなのはこれです。

先の説明では端折りましたが、媒体にも広告主にもそれぞれ「色」があります。
媒体でいうと例えば、ゲームなのかツールなのか、ユーザーは男女・年齢どの層が多いのか、リピーターが多いのか新規ユーザーが多いのか、などなど。
そして、それに合った広告主や広告案件というのが存在します。

例えば、日経新聞に「妖怪メダル」の広告が出てきたり、VERY に「一皮ムケた男になる!」の広告が出てきたりしても、明らかに合わないじゃないですか。

ルナルナには化粧品とか女性服の広告が出ているべきだし、カジュゲーにはゲームの広告が出ていたほうが効果が高そうだよなって、直感的に分かるじゃないですか。

適切な媒体・ユーザーに、適切な広告を見せることで、同じ回数広告を見せていても、クリックやコンバージョンやその後のサービス利用に繋がる "率" が高くなります。
なので、広告主にとっては効果が高くなる (ので、高い単価で出稿し続けていても費用対効果が見合う) し、その結果、媒体にとっては長期的に収益性が高い状態を維持できるわけです。

じゃ、どの媒体・ユーザーに対して、どの広告を見せるのかって、誰がどうやって決めているのか?

先にも書いた通り、広告媒体も広告案件もめちゃくちゃたくさんあります。
例えば AppLovin だと、日本だけで案件は常時数百、媒体は数千あるので、組み合わせはその掛け算通り (ざっと 100 万通り以上) あるんですね。

配信する前から「どこにどの案件を流すのが、最も効果が高いか」分かっていたら苦労は無いんですが、実際にはそんなことはありません。
なのでアプローチは「人間が恣意的に決める」か「データをもとに学習する」かの 2 つになります。

前者の「人間が恣意的に決める」とはどういうことかというと、個別の広告案件について、相性が良さそうな媒体をアドネットワークの中の人が目で選んで、手で配信設定する、ということです。
その際に、媒体ごとの単価も手動で個別に設定することもあります。

これは短期的に見ると、広告主にとっては最初からそれなりに効率がよくなり、媒体にとっても最初から相性がいい案件が流れてくるので、一見よさそうなのですが、いくつか問題を抱えています。

まず媒体にとっては、限られたいくつかの案件 "しか" 流れてこないことになるので、時間がたつと (潜在ユーザーが大方その案件のアプリをインストールしてしまうと) 収益性はだんだん落ちてきます。
その前に、新しい良い案件をすぐ流してもらえれば良いのですが、そうならなかったら気付いたら収益性がすごい下がってたってことになりかねません。

また、規模が小さい媒体や、アドネットワークの担当者とコンタクトがない/頻繁に連絡をとっていない媒体は、良い案件を配信してもらえなかったりします。

アドネットワーク担当者に悪気があるのかないのかは分かりませんが、事実として媒体は日本に何百・何千とあるので、全ての媒体の特性を把握して、小さい媒体にも漏れなく案件を流すのは、人力では物理的に無理だと思います。

媒体の数も案件の数も、人間が全て把握できるぐらい少ない場合においては、この仕組みでも回せるかもしれません。

なので中小規模のアドネットワークの戦略として、一部の大きな媒体だけをしっかりと囲い、それらの媒体に相性のよさそうな案件だけを営業でとってくる、というのはアリです。
例えば「女性に特化したアドネットワーク」なんかはその代表例と言えるでしょう。

また、広告主側にとっては、限られた媒体にしか配信できないため、
  • 規模が限定的になる
  • もしかすると相性よかったかもしれないが、担当者が気づかなかった媒体に、配信するチャンスを逃す
  • 効果が "枯れる" のが早い
といった問題があります。

「初速よかったんだけど、すぐ効果が悪くなったし、ボリュームも出なかったな」となるわけです。
(あるある〜)

それをテクノロジでどう解決するのかというと、簡単にいうと
  1. ある案件を、色んな媒体にまずは配信する
  2. データから、その案件と相性が良い媒体を判定する
  3. 相性が良い媒体に対する配信割合を増やし、相性が悪い媒体に対しては {配信割合を減らす} or {配信単価を下げる}
  4. それを全ての案件について、なるべく速く行う
ということになります。

そうすると、十分なデータが溜まってからは...
広告主にとっては
  • 相性の良い媒体を漏らすことなく、それらの媒体から多くのユーザーを獲得することになるので、品質とボリュームの両方を実現できます
  • 新しい媒体が出てきたときにも "相性が良い? 悪い?" を自動的にテストして、良ければそこに対して配信が厚くなるので、高い効果が長く継続します

また媒体にとっては
  • 担当者と特に連絡をとらなくても、(ほぼ) 全ての案件が待ってるだけで流れてきます
  • 流れる案件は徐々に相性が良いものに偏っていくので、だんだん収益性が上がります
  • 案件の種類も多く、新しい案件も次々に入ってくるので、気付いたら収益性が大崩れしていた、みたいなリスクが小さいです

ただしデメリットが全くないかとそうではありません。
例えば広告主にとってのデメリットとしては、最初のうち (統計的な意味で十分な量のデータが溜まるまで) は相性が必ずしもよくない媒体にも配信することになるので、そのための "学習費用" がかかります。

同様に、新しくリリースされたばかりの媒体は、どの案件が相性良いのかどうかがまだ分かっていないため、いろんな案件を配信してテストしないといけません。
その間 (相性が良い案件が見つかるまで) は、本来のポテンシャルよりも収益性が低くなってしまうことは十分ありえます。

その期間がどれぐらいかかるのかは、時間というよりはデータの量に依存するので、広告主にとってはたくさん広告費を使うほど、媒体にとってはたくさん広告を表示するほど、速く最適化が進みます。
(なるべく少ないデータ量で、より確からしい最適化が出来るっていうのが、このタイプのアドネットワークの競争力になります)

なのでそもそも小さい媒体は、時間がたってもなかなか収益性が上がってこない、ってことがありえちゃうんです。
もうこれは仕方ない。

だって例えば通算で 5,000 インプレッションしか発生してない状態って、例えば 10 案件に 500 インプレッションずつ分け与えてたとして、それぞれの案件からせいぜい 1-2 インストールぐらいしか発生しないわけですよ。(CTR 5%, CVR 5% で、期待値 1.25 インストール)
たまたま 3 インストール発生した案件があったとして「これは他の案件の 3 倍相性良い!」と言えるかというと、そんなことはなくて、ただの統計の誤差なんですね。

こういう特性を理解しておくと、例えば媒体規模が小さいうちはあまりたくさんのアドネットワークに少量ずつインプレッションを分散させないのが良いのかなとか、やるべきこと/やらないほうがいいことが分かると思います。
それは長くなるのでニーズあったらまた別の機会で...

3. 利ざやを削る


前の項目が長くなっちゃったので忘れてる方もいるかもしれないですが、「アドネットワークとしての競争力をどう出すのか」の 3 つ目です。
ちなみに 1 は「営業を頑張る」2 は「テクノロジで解決する」でした。

アドネットワークのビジネスモデルは、広告主から広告費を預かり、媒体に仕入れ代を支払い、その差額で儲ける、というものでした。

ここで、全くテクノロジが同じアドネットワークが 2 つ (A, B) あったとします。
A は、広告主から 100 の広告費を預かり、媒体に 50 の仕入れ代を払い、50 の粗利をあげています。
B は A に対抗するため、媒体にはより多く 60 の仕入れ代を払い、広告主には同じアウトプットに対してちょっと割引して 90 しか広告費を請求しませんでした。(粗利率は A の 50% に対して B は 33% になります)

そうすると、媒体としては当然より多くの在庫を B に売るのが合理的ですし、広告主は B に出稿したほうが費用対効果がよくなります。
結果として、市場シェアは B のほうが大きくなりました、めでたしめでたし。

とは、残念ながらなりません。
何故なら、詳しくは長くなるので端折りますが、A と B が競争をすると、双方が自分のマージンを限界まで削ってシェアを取りにいくことになるので、両社とも粗利がゼロになるからです。
(ゲーム理論ではそうなります)

粗利がゼロになってしまうと、当然販管費などがかかるため、営業利益は余裕の赤字になります。
それだとビジネスは継続できなくなります、残念でした。

実際には、各社とも長期的に利益を最大化することがミッションになるので、アプローチとしては、テクノロジを磨いて・十分マージンをとっても高い広告効果/収益性を実現できるプロダクトを作り、実力でシェアを伸ばしていくという道からは逃げられないでしょう。

短期的に、広告主から預かっている以上に媒体に払い出しをして (粗利をマイナスにして)、競合から媒体を奪いシェアを伸ばすような会社も中にはあるようです。

例えば
  • 上場や資金調達を見据えてトップライン (媒体費用を引く前の、対広告主の売上高) だけを伸ばしたい
  • まずシェアを高めておいて後から通常の粗利率に戻して利益を確保しにいく戦略
などの事情があるんじゃないかと思います。

が、当然ながら赤字垂れ流しの状態なわけなので、長く続けることは出来ないですし、利益を取りに行くフェーズまでにプロダクトが十分強くなっていなければまた競合にひっくり返されるだけなので、あまり賢い戦略ではないような気がしています。

ちなみに AdMob (Google) ではマージンの比率を変えることは一切できませんでした。
なので短期的にはそういうことをやってる競合に負けることもありましたが、コツコツとプロダクトを磨き続けた結果、最近では「結局バナーでは AdMob の収益性が一番高い」と、AdMob 回帰が起こっているように見受けられます。

というわけで結論


すげー長々と書いてきましたが、恐らくこの記事を一番読んでいるであろうアプリ媒体の皆様におかれましては、今後も「一番稼げるアドネットワークを使う」のを続けていただければ良いかと思います。

が、決してアドネットワークの営業担当の甘い言葉に踊らされるのではなく、きちんと良し悪し (アドネットワークとして競争力があるのかどうか) を見極めるのがよいでしょう。

その際のポイントとしては
  • どうして収益性が高くなるのかを、担当者が説明できるか
  • その内容は、長期的に高い収益性があがる理由を論理的に説明できているか
です。

そこがきちんとしていれば (担当者が嘘をついていない限り)、頻繁に中の人と連絡をとって調整してもらったりしなくても、高い収益性が安定的に・長期的に見込めるはずです。

媒体の皆様のアドテク (の裏側のロジック) に対するリテラシが更に上がり、良いネットワークを正しく選んでいただけるようになれば、皆様にとってハッピーであることはもちろん、常に「良いプロダクトだけを売りたい」と願っているイチ営業マンである僕としても幸甚の極みであります。

最後に、こんなクソ長い記事になるとは最初は思っておらず、何度か途中でキーボードを叩き割りたくなりましたが、応援してくれたついったらーの皆さんどうもありがとうございました!




Q

0 件のコメント:

コメントを投稿