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2016年8月3日水曜日

続・非ゲームアプリの挑戦 - MUJI passport、すかいらーくのケース

対談記事「しば談: 非ゲームアプリのマーケティングについて語ったよ」にインスパイアされた座談会の書き起こし記事、後編です!

前編はこちら→ 非ゲームアプリの挑戦 - MUJI passport、すかいらーくのケース

[ゲスト]
濱野 幸介さん (良品計画)、神谷 勇樹さん (リノシス)

[モデレータ]
向井 俊介さん (App Annie)、坂本 達夫どん (AppLovin)

[議事録]
高木 千尋さん、芳田 佳奈さん (いずれも App Annie)

<以下敬称略>

MUJI passport の目指す世界とそれに対する打ち手


濱野:MUJI passport の概念なんですけど、なんで passport っていう名前なのかにも通ずるんですけど、元々のコンセプトは「無印良品王国への入り口」っていう位置付けだったんですよ。

坂本:なんか、ディズニーっぽいですねw


濱野:いや、本当に。だから無印良品の入り口への GATEWAY、でも「MUJI GATEWAY」はさすがにないよねって。それに変わるものってなんだろうって考えて「passport」になったんですよ。

坂本:なるほど。世界観出てますね。

濱野:あと今やってて面白いと思ってるのが、タイムラインみたいなのをアプリの中に入れてるんですけど、月間で 200 万人以上が月 1 回は起動してくださってる状態なんですね。

坂本:MAU 200 万人って相当多いですね。母数いくつなんでしたっけ?

濱野:DL 回数が約 700 万、DL した端末でいうと 500 万ちょい。

坂本:全体 DL のうち 30% 以上が月に 1 回は見てるってことですよね。やばいっすね!

神谷:端末買い替えとかあるから割合でいうともっと高いですよね?

濱野:そうですね。同じユーザーの重複 DL を全部カウントして 500 万なので。

坂本:高いですねえ。

濱野:で、200 万人が見てるアプリの中に “from  MUJI” というタイムライン機能があって、買ったことのあるお店やお気に入りしているお店の情報が流れてくる様なものなんですけど。その中には「苔玉のワークショップ」とか「お菓子のワークショップ」が記載されていて、ネット上から予約できる形にしてるんですよ。今までは電話で予約だったのですごい手間だったんですけど、こういう形にしてみたらすぐ埋まるようになりました。

坂本:へー!

濱野:すごい喜ばれてるし、一つの形だよねってなってます。なので、あくまで入り口です。

坂本:ユーザーと接する頻度を高めて、アプリがなかったら年に数回しか無印良品に接してなかった人が、月に 1 回アプリを開いてくれるようになったと。そのあと最終的なゴールは店舗に来ることですか?

濱野:無印良品って商品は「普通に売っているもの」なんですよ。ペンもカレーも、他のところで普通に買えるものが多い。ただ、品目数が多いんですよ、7,000 品目もある。

神谷:だいたい店舗だと全部置いてるもんなんですか?

濱野:旗艦店かどうかによって違います、これは小売どこでもそうだと思うんですけど。有楽町などはほぼフルの品揃えであります。


坂本:逆にそうじゃない店舗は、品揃えは多少旗艦店に劣ると。

濱野:購買は大事ですが、CRM の既存概念にある購買だけでなく、購買の前後の「お店にチェックインした」「ブランドサイトで ”欲しい” “持ってる” した」「くらしの良品研究所で商品の改善アイデアを投稿した」など、購買には至らないがブランドに共感し、ブランドの活動に参加したことをエンゲージメント行動と捉えて「マイル」という形で可視化しています。

坂本:なるほど。

濱野:なのでマイルは金銭的な価値だけでなく、ブランドの参加度合いを測るメジャーとなり、これが多いほど LTV が高くなるという考え方です。

坂本:実際、いっぱい参加してるユーザーは、いっぱい買ってくれるようになるんですか?

濱野:もちろん買ってもくれるんですが、イベントに来るということも一つの大きな体験なので、それをやってくれることを大事にしようという考え方です。それが表れている例としてはチェックイン機能です。日本だからというのもあるんですけど、チェックインができる様になってて、でもお店の中に入らなくてもお店から半径 600m 以内でチェックインできる様になってるんです。

坂本:600m って結構広いですよね。

濱野:広いです。

坂本:有楽町駅に着いたらお店に行かなくてもチェックインできるみたいな。

濱野:そうなんです、それでもいいと思ってるんです。思い出してもらえるから。10 マイル付与しているのですが、それで無印良品のことを思い出してくれるな全然いいと。未だに beacon とかを使わないのはそういう理由です。そういう目的じゃないから。

神谷:それを聞いて自分も真似しました(笑)。

唐突に AppLovin の話を振ってくる AppAnnie 向井さん


向井:AppLovin みたいな動画広告は、ブランドを覚えてもらう・思い出してもらうだけじゃなくて、ダウンロードして、起動して、プレイしてもらって、課金してもらうっていう施策ですよね?

坂本:そですね、ブランディング広告主はほとんどいないです。スマホの動画広告が来るぞ来るぞと言われていましたが、結局去年までは来てないじゃないですか。今までの来るぞ来るぞと今回の違いはまさにその広告主の種類、これまではブランディング広告主を追いかけていたんですけど、去年はパフォーマンス広告主が本格的に動画でお金を使い始めて、ようやく市場が動き始めました。

向井:広告主の目的が、ただ動画を見られれば OK ってだけじゃなくなってきたと。


坂本:AppLovin に出稿している様な広告主は、動画広告から何人のユーザーを獲得しました、そのユーザーからどれくらいの売り上げが出ていて、ROI がどれくらいかというのを見ていて、効果が高ければ単価も上げる。AdWords の キーワード広告に出すノリで出せるようになってきたっていうのが、大きな違いですね。

向井:なるほど。そういう広告主は、継続的に出稿し続けますしね。

坂本:ブランディングって結局効果わかんないじゃないですか、なんとなく担当者と広告代理店の肌感覚で、継続するかどうかが決まる的な。だからスマホ動画広告って、ブランディングの予算を取りにいったアドネットワークが、毎年 1〜2 社没落してたんですけど、パフォーマンス広告主がつき始めた去年からは安定して数社成長してきてるっていう感じです。

向井:1 社が頑張ってるだけじゃなく、市場として伸びてきてるってことですね。

そこから上手くユーザー獲得について話を広げる坂本


坂本:ユーザー獲得でいうと、無印良品もすかいらーくも今の話だと、すでに既存のお客さんが店舗に来ていて、その人たちをアプリに寄せていくという話であって、アプリ起点で新規のお客さんを呼ぼうという発想ではないですよね?

濱野:今はあまりないですね。ただ、今後どうするかというところに関しては議論してます。

神谷:某社でいうと、純粋な意味での新規ってほとんどいないんですよね。

坂本:初めてガストに行く中学生とか?

神谷:若年層も、ちっちゃい頃には行ってるので、純新規ではないんです。むしろ大手の小売・飲食企業だと、新規をとるよりは、年間 1〜2 回来てた人がもう 1 回来てくれるだけで売り上げ 10% 以上 伸びるような企業も多いから、そっちの方が割がいいんですよ。だったらそこをやった方がいいよね、って。

坂本:なるほど。そういうお客さんのほうが数としては多いんですね。

神谷:年間 10〜15 回来てた人がもう 1 回来ても大したインパクトないんだけど、2〜3 回来てた人を 3〜4 回来させることならできるんじゃない?っていう考え方で、そっちを狙ってます。

濱野:無印良品もその考え方です。レジ通過数ベースでプラスもう 1 回するにはどうするか、っていう。むしろ新規って誰?という議論をしているんです。無印良品って認知率 90% 台 とかなので、純粋な新規っていうのはいない。でも、以前ファミリーマートに売ってたのを買ったことあるけど店舗に行ったことないっていう人とか、以前行ってたけど最近行ってない人たちに、どう来てもらうか。今のアプリを拡張した形でどうできるかっていうのを考えています。

坂本:今のアプリは、すでにお店によく来てる人やファン度が高い人に向けてデザインされていますよね?

濱野:そう、だからこのアプリにダイレクトで新規を集客することは考えていないです。無印良品に合う人/合わない人って結構分かれるので。

坂本:例えば 109 の店員さんとかは行かないでしょうね(笑)。


濱野:そうなんですけど、一方でライフステージもあるので、例えばそういう人でも引っ越すときや家族が増えるタイミングで「無印良品にはインテリアアドバイザーっていう人がいますよ」って知ってもらうと「だったら相談してみようかな」ってなるかもしれないですよね。そういう時節のタイミングを捉えて、「1 回来てもらう」ところはちゃんと設計しなきゃねとなっている。

坂本:なるほど。

濱野:そこから先は MUJI passport でいいと思うんですけど。その辺がゲームと違うのかなって思いますね。

神谷:GREE でゲームやってた時は、いかに少数にお金を使ってもらうか、というところを考えていましたからね。10 万円以上月に使ってくれている人がお客さんだった世界から、年間で 2〜3 回来店して 2,000〜3,000 円しか使ってないお客さんに、もう 500〜600 円使ってもらうっていう。業界や業態によって引けるレバーは違うなって感じですね。

濱野:元の話に戻ると、みんなスマホ使うようになって 80% の時間はアプリを起動していてブラウザ閲覧は減ったし、20 代女性を増やしたいという課題が明確に無印良品にあるわけなので、アプリやモバイルを意識しないという手はない。打ち手の 1 つとしてアプリがあるし、あんまり自社アプリにこだわってるわけでもない。他のアプリに出現しても構わない。そういう意味での bot というものはあってもいいし、例えば LINE で繋がっているお客さんには LINE 上で ID を表示できたりしてもいい。

神谷:環境やタイミングによってベストは変わると思うんですが、小売とか顧客接点を持ってる会社だとアプリがいいかなって感じはある。

アプリ上での売上を伸ばそうとは考えないのか?


坂本:アプリは CRM ってお話でしたが、無印良品って WEB で直販もしてますよね?アプリでそこ伸ばそうっていう考えはないんですか?

濱野:無いことはないんですが、重要なポイントとして、無印良品のネットストアの売り上げ、EC 化率は 7-8% しかないんですよ。日本の小売業界全体で 4-5 %くらいなので、まだ僕らでも上の方です。

坂本:一般からすると高いですよね。

濱野:そうですが、リアルの売り上げが 9 割なので、そこに対して EC 的なアプローチで解決できるものがないか、という考えをしています。EC っぽい買い方ができる様にしていかないといけないが、9 割に対して何かできることないんだっけ?と。例えば、Apple Store の Easy Pay みたいなもので、リアル店舗だけど自分の端末で決済する、というのはあってもいいと思ってます。

坂本:EC でいうところの「決済のステップを減らしてレジの通過率を上げましょう」みたいなことですよね?

濱野:そうです。何より大きいのはレジ待ちを減らせるんですよ。無印良品週間の時とか、お店のセールが重なると行列がすごく長くなってしまうんですよ。

坂本:おぉ、そうなんですね...

濱野:ルミネの店舗とか、ルミネ自体の 10%OFF と重なるから店外まで並んじゃうんですよ。


経営レベルにどうモバイル化・アプリ化・IT 化を認めさせたか


坂本:お 2 人とも外部から入ってきてるわけですが、web 化やアプリ化とかって「出来る人がいない問題」ってあるじゃないですか。

神谷:僕がすかいらーくに入ったときは絶妙で、それまでできなかったことが色々できるようになったタイミングだったんですよね。データ分析だと Redshift が出てきたり、アプリのトラッキングツールが出てきたり、ようやく色々できるようになった時代にたまたま入ったんで。3 年前だったらわからなかったなというのはある。

坂本:データ分析は何を使われてますか?

濱野:だいたい一緒です。Amazon Redshift, Tableau をベースに、大量の生データをそのまま蓄積するために Treasure Data 使ったり、Adobe Analytics を組み合わせて Redshift 上で集計したものを分析してるっていう感じです。多人数で展開する場合は Redshift から Microsoft Azure 上の SQL Server や ウィングアーク 1st 社の MotionBoard など別のツールに移して使ってます。割と普通です。

坂本:何のデータをとって、どう貯めて、どう分析するかは、入社後にご自身で決められたんですか?

濱野:はい。Redshift, Tableau は、入っているのが普通なんですよ。ただ問題はどこまで分析できているか、そこは差が非常に大きい。

神谷:Excel が PC にみんな入っているのと一緒。マクロも使いこなしてる人もいる一方で、電卓で計算してから Excel に打ち込む人もいる、みたいな。


濱野:無印良品では週 1 回マーケティング系の役員も出る会議があって、その中で役員にとって刺さるような分析結果を差し込んでます。例えば、「何人が 2013 年度に獲得して翌年何割が休眠してしまったか?」といった、レジだけでは取れない、現場もなんとなくでしかわからないデータとか。

坂本:それは経営レイヤーには刺さりそうですね。

濱野:また、「ネットストアの商品情報を見てからリアルの無印良品の店舗で買う人って何%くらいいるのか?」を数字で出したら、100 人中数十人だったんですよ、びっくりしちゃって。

坂本:驚異のコンバージョン率!

神谷:WEB とか適当に「こんなかんじでいいや」ってやってるとこも多いですけど、そうじゃないかもですね。

濱野:これ見た瞬間に、だったらもっと ネットストア上の商品情報に 集客しなきゃって話になりますよね。「購買する場所としてのネットストアだけじゃなくて、実店舗も意識した商品カタログ整備するのが大事なんだね」って、瞬時に役員と目線が揃うんですよ。

坂本:経営レベルではどこに投資するのが最適かって考えなきゃいけないのに、現場が自分の管轄だけ伸ばそうって思ってると、実は大きく伸ばせるレバーに誰も手をつけない、っていうことが起きちゃいますよね。

神谷:そうですね、そういうのは結構ありますね。

アプリ化はゴールではなく...


坂本:神谷さんは今、すかいらーく以外のいろんなとこを見てるんですよね?

神谷:すかいらーくはやめていて、今の仕事でもタッチはしていないです。

坂本:新しいクライアントと関わり始めた時、ステップとして何をどういう順番でやるんですか?

神谷:ケースバイケースですが、まず何をやったら売上が伸びるのかを考えます。初めはデータではなく、ディスカッションしながら、多分こういうところかなみたいのを頭の中でイメージをつけて、当たりをつけに行く感じです。

坂本:ディスカッションする相手はどんな人ですか?

神谷:色々です。マーケサイドの人もいれば経営陣もいれば IT みたいな人もいます。

坂本:色んな人に話聞いて、こういうビジネスモデルで、こういうフローになってるから、ここが一番詰まってるポイントだから直そう、って課題を探して解決してくみたいな感じですか?

神谷:そうですね。


濱野:無印良品の時も最初そうでした。送客 (店舗への集客) できなきゃ意味ないんですが、会員のデモグラ分布がこうだよねっていうのを見せながら、この人たちにこういうインセンティブでこういう刺激をしたらこういう数字の動きが生まれそうで、販管費とか含めると P/L インパクトはこうなりそうで、最低限だとこれくらいかなと損益分岐を示しながらディフェンスする、っていう。総合格闘技みたいなイメージ(笑)。

坂本:いち事業責任者として P/L を全部見るみたいな?

濱野:そうですね。

神谷:よくある話で、重要な観点としては「自分のお金突っ込んだとしてもやるのか?」ってところがあって。実現するのか?リターンはあるのか?いつぐらいにリターンが帰ってくるのか?などいろんな意見を出して、実現性とリターンの大きさでマッピングして、大きいところからやっていく。

濱野:アプリ企画という感じでもないんですよね。

坂本:お話伺ってると、経営コンサルをしていて、結果たまたまアウトプットがアプリでしたっていう感じがしますね。

神谷:そうですね。いろんな課題があるんですけど、ネットの世界を色々見てきてるのでこういう課題って多分こうやったら解けるよな、こう改善できるよね、というのが想像がつくわけですよ。それがたまたま出口としてアプリだったという。広告宣伝費の費用対効果なんて、ソシャゲ時代から TVCM の効果検証でさんざんやりましたからね。

坂本:GREE さん、その辺の対応は早かったですし、かなりきっちりやられてますもんね。

神谷:GREE は突っ込んでましたから(笑)。そんな感じで知見や経験を生かしながら、マーケティングだけじゃなくてオペレーションとかの問題も含めてどうやっていくかという方向から考えています。

濱野:日本のアプリあるあるだと「アプリ作りたい」から始まっちゃってる。なんかモバイル!なんかアプリ!ってなって。ちょっと待ってよ、と。

神谷:そうそう!そうそう!

坂本:確かに、ぼくがいた当時 (2008-2011 年) の楽天でも「全事業部アプリ作れ」って指令がおりてきて、作ったことある人誰もいないのに全事業部が作ったってことがありました。

神谷:アプリだけじゃなくて、最近だとこないだ「Pepper に喋らせたいんだよね」っていう案件の相談がありました。目的を何度聞いても「Pepperに喋らせたい」と。打ち手から入ってきちゃっているんですよね。

濱野:アプリ作ること自体が目的化しているケースは多いですね。

坂本:以前、大手の非ゲーム企業数百社に対して何個アプリがあるのか調べたら、6,000 個とかでてきたんですよね。誰一人プロモーションにお金使ってないし、こんなアプリあったんだ?っていうアプリが山ほど出てきてびっくりしたことあります。

濱野:たまに相談を受けますが、アプリにする必要あった?というものも結構多いし、頑張ってプロモーションしない方が正解なんじゃないかという時もある。そういう時はアプリと WEB の役割ってどうしたらいいんでしたっけというところから話したりします。


坂本:「アプリを使ってお客さんにはこうなってほしい」というのがスラスラ出てくるほうがレアケースかもしれないですね。

神谷:さっきの Pepper の例も、その前にアプリをゼロから作り直した方がいいよねという事例だったんですよ。Pepperも「店舗での接客をどうしていくか」という文脈の中でそれが必要な企業ももちろんあって、そうであればぜひやるべきなんですが、先ほどの例ではPepper やること自体が目的になってるんですよね。

対 Amazon をどう考えているのか?


向井:お 2 人に聞きたいのが、Amazon が最近プライム会員フックですごい勢いでユーザー数増やしているじゃないですか。日本のリテール出身のお 2 人から見て、こういうグローバルのリテールが日本の可処分所得や時間をとってるのはどう見てるんですか?

App Annie 向井さん

濱野:事情が違いますからね、無印良品はメーカーでもあるので、モールとは相性悪くないんです。究極的にはお店はショーケースになって、イベントでコトを消費してもらって、それでもいいかもしれない。

坂本:なるほど、別に無印良品として Amazon とか楽天で売ればいいって話ですもんね、いちメーカーとして考えると。

濱野:けどその他の小売事業者にとっては、正直きついと思う。特に小売って、リアルのお店は何したらいいんでしょうねっていうのを議論しておかないとやばいと思う。

神谷:小売はきついんじゃないですか。

濱野:Amazon が外資だからっていうよりも、ユーザーがデジタルにシフトするという観点で考えておかないときついと思う。

向井:逆に、Amazon が EC の観点で伸びたのはなぜだと思いますか?

濱野:利便性とエコシステムじゃないですかね、出品者も買う方も。買う方は最も欲しいものを勧めてくれるし 1 click で買えるし、出品者からも出荷とかやってくれるのは楽。双方にメリットがあるようになってる。

神谷:僕はどっちかっていうと利便性だと思う。エコシステムは利便性のためだし、(利便性が極まると) 値段をほぼ見なくなるから。某オンライントラベルを比較して消費者アンケートしたことがあるんですが、それぞれに定着したファンって「こっちの方が絶対安い」と信じ込んでるんですよ。本当は安い時もあれば高い時もあるのに。そこまで達すると勝ちだなって。

坂本:もう信者みたいになっちゃってると。

神谷:そういう状況になっちゃってるのが今の Amazon なんじゃないかなと。そこまでは色々頑張る必要はあると思うんですけど、競合の価格より安くするとか、セールをやるとか。いかにそういう状況を作れるかっていう話で、Amazon はそれを作っちゃった。他がひっくり返せるかっていうと大変。小売を自社でガチでやっているところは、そういう意味では、リアルの接点をレバレッジしないとダメだなと思ってます。

坂本:個人的に面白いなって思ってるのが「北欧、暮らしの道具店」 (http://hokuohkurashi.com/)ですね。考え方としては無印良品に似てますよね。

濱野:似てますね(笑)。

北欧、暮らしの道具店

坂本:EC なんですけど、全国民にそもそも届けようと思ってなくて、「うちの強いファンになってくれる人に届けます」みたいな世界が理想とするところで、その人たちは同じものがより安く Amazon に売ってたとしても「北欧、暮らしの道具店」で買います、みたいな。そういう世界観を伝えるための Web や、SNS を使ったお客さん誘致やブランディングで。Amazon とガチンコで戦うっていうよりは、必ずしも正面から戦ってはないけど生き延びてる。「その層のお客さんをとる」っていう戦いでは勝ってる。

濱野:無印良品でも結局同じで、何かっていうとコミュニティなんですよ。無印良品の商品すごくいいんだよって言ってくれる人がいて、勝手に NAVER まとめとか作ってくれて。ステマじゃないですからね(笑)。

坂本:すごいですよね、ユーザーさんが自分で作ってて。

濱野:そうなんですよ、だからそういうことだと思ってて。「1 億人の 3% を狙ってマスの媒体に打つ」っていうんじゃなくて、「100 万人の人に周りの 3 人に紹介してもらう」っていう感じのやり方が 無印良品 っぽい。多分「北欧、暮らしの道具店」も一緒なんですよね。インスタグラムのフォロワーもすごく多いでしょ?そこでジャムとか出した日に即完売するケースがあるとききましたよ。

坂本:ジャム作ってる工場見せてもらったことありますよ、国立で。スタッフも、元々ファンだった方とかを年間で一括で中途採用したり、よくわかんない...もといユニークな取り組みをやっててw

一同:へー!


濱野:面白いんですよ。

コミュニケーションの道具としての動画の活用


向井:世界観って話になると、動画ってすごく強いじゃないですか?今までの広告のモデルってなかなか世界観を伝えられないっていう一方で、動画になることでそこのメッセージって込められると思うんですけど、濱野さんからみたときにオンラインで動画で世界観を伝えるような広告を打つとかってありなんですか?

濱野:あるかもしれないけど、今の無印良品の状態だと単純な「広告」は難しい。一方で、実は無印良品の動画コンテンツってすでにかなり多いんですよ。MUJI to GO (http://www.muji.com/jp/mujitogo/) を見てもらうと、15 秒ぐらいの商品ごとのムービーがたくさんあるんですが、それらを通して見ると、全体で見ると旅に出るってストーリーになってるんですよ。



坂本:おー。メモを書いて、荷物詰めて、空港に行って、みたいに動画が流れになってるんですね。

濱野:「to GO」なんでトラベル用品のラインナップなので。それをソーシャルに流すときはひとつひとつの商品ごとムービーを流すようにしています。だからある意味その 1 つ 1 つが広告っちゃ広告なんです。今は出し先が SNS ってなってますけど。結構面白いですよ、見てると。

坂本:このサイトはここからそのまま購入できるんですか?

濱野:リンク先がネットストアになっているのでそこから購入、という導線ですね。視聴回数がどれくらいあるか、シェアされてどれくらい広がっているか、とかはずっと測定してます。

向井:ここからユーザーがどういう風に遷移していったかっていうのは全部測ってる?

濱野:いや〜ユーザー 1 人 1 人のレベルは難しいですね。ソーシャルに掲出したりすると測れない指標とかもあったりするんで。オーガニックとバイラルのリーチ数とかは当然見てるんですけど。無印良品に合いそうな人たちに提示するっていうのを、広告とは言わないで、「コミュニケーションだ」と体験含めて昇華させていけるなら、広告もありだなって感じですね。

神谷:言い方の問題は結構大きいですね。

向井:神谷さんがこれからリノシスとしてやろうとしている事業って、今までにない小売店でのロボットの活用とか、動画とかも、いわゆるプロモーション方法として考えてらっしゃるんですか?

神谷:プロモーションというか「どうお勧めするか」の工夫の余地は結構あるなと思ってて。

向井:お店で?

神谷:お店で。例えば、料理って匂いがメニューで伝わればいいんですけど、なかなか難しいんで、目から入れるっていいなっていうのはあります。静止画ではなく、肉が焼かれているジューっていうシズル感溢れるものを訴求すると、結構変わるんじゃないかなって思ってます。

濱野:わかる。最近すごい TASTY (https://www.facebook.com/buzzfeedtasty/) 好きで。すごい見ちゃうんだよなあ。

神谷:接客をどう人じゃなくてもできるようにするのかという中で、動画ってひとつ大きいとは思ってるんですよね。それとはちょっと違う話として、色んな外食の人と話すんですけど、「埋もれてるバリュー」はあると思っていて。「本当はこれもっと伝えたいんだけどなあ」みたいな。例えばガストだったら保存料や添加物はほとんどゼロでやってるとか。

一同:へー!知らなかった!

神谷:でしょ?安全なんですよ。しかも冷凍ってほとんどないんですよ。

一同:へー!

坂本:意外だ。超先入観ありました。

神谷:でしょ?っていう。もったいないんですよ。賞味期限とかも超短くて、平均 3 日経ったら廃棄してたり。だから管理大変なんですよ。前日発注で、朝の午前 3 時からセントラルキッチンで作り始めて、毎日お店に運んで、で、あの値段。だから普通の家庭の冷蔵庫よりフレッシュなんですよ。

一同:確かに!言われてみれば。

神谷:実はフレッシュなものが揃ってるし、添加物も使ってないし、安全でいいものを使ってるんですけど、それが伝わってないから伝えたい。じゃあどう伝えるのがいいかっていうと、色んなやり方があるんですけど、コミュニケーションの強さとして動画というのはやっぱりあると思ってます。

坂本:作り込みの難しさはありますが、メッセージの伝わる強さはありますもんね。

神谷:テクノロジー使って解決できることはいっぱいあると思ってて。それこそ、チェーンレストランのオペレーションって、セントラルキッチンで下準備された食材が来るから、店舗での簡単な調理や盛り付けだけならロボットとかで結構できるはずなんですよ。

向井:実際、自動のロボットありますからね、バーミヤンでチャーハン炒めるロボットとか。

坂本:バーミヤンまじっすか。はんぱないですね。

神谷:でもあれって残念ながらハードウェアなんですよね。日本ってものづくりって言われてますけど、逆に言うとソフトウェアがないっていうとも言えるんで、そこにソフトウェアいれてフィールドワークかければ、効率化って面からもクオリティって面からも結構面白いことできるはず。っていうのを今、会社立ち上げてやってます。

坂本:そういうことをやる会社なんですね!

神谷:ミシュラン一つ星のクオリティを、チェーンレストランで 1,000 円札 1 枚で出せるようにするっていうのがミッションです。要素技術が結構あるんで、あとはやるだけっていうかんじです。

坂本:相当面白いし、でも相当高度ですね!

レガシーな会社のデジタル化で活躍できる人材とは?


坂本:1 つ聞きたかったのが、アプリとかデジタルのことがあんまりやれていないレガシーな業界や会社、いっぱいあると思うんですけど、どういう人がそういうところに入ったら面白い、入ってきてほしいというのはありますか?

神谷:色んなところで言ってるんですけど、ソシャゲーやってた人だと思います。絶対活躍できると思います。

坂本:ゴリゴリ分析して改善して〜みたいなことですか?

神谷:ネットサービス系だったらどこでもいいのかもしれないですけど、「何を使えば何ができるか」の土地勘があると思うんです。既存の事業を disrupt するようなときに、レガシーな企業には攻めの IT を上手く活用できる人がいないんで。今までの基幹系とか会計系とか受発注とかとは違うじゃないですか。それはそれで必要だし、これからも必要なんですけど、スキルやマインドセットやノリが違うものが求められるので、「IT 担当」ってくくりで同じ人がやっちゃいけないよねっていう話です。

坂本:攻めはフォワードにやらせるべきだ、と。

神谷:で、一番攻めてた人がソシャゲーの人間になるんじゃないかなと。

坂本:そういう人たちはレガシーな会社に行きたいんですかね?会社の風土とか仕事のやり方とか、全然違いますよね。

神谷:めっちゃ違いますよ。だからそこのハードルはあるんですけど、小売でも飲食でも今のままだと、働き手が減っててつらいんですよ。今日の日経でもあったんですけど、パート・アルバイトの人件費がどんどん上がってて。

坂本:都心のほうとか「え、バイト?」ってくらい時給高いですもんね。

神谷:でしょ?それだけ人がとれないから。毎年数パーセント上がっていってて、これが 5 年続いたら時給いくらになるんだっけという世界。このままいったら本当に崩壊する。っていうなかで、何か変えなきゃいけないというのを、今の常識でやってる人たちじゃ解決が難しいところがあって、ここに切り込んでいく人がいたら面白いなあっていう。

濱野:外からの外圧がないと難しいと思いますね。違う観点で言ったら、ネットショップの店長やってて、昔リアルのコンビニで働いた経験もあって、経営者と話せる人とか。中の人間だけじゃ変わらない。小売の事業会社ってすごいローテーションするんですよ。お店いったり、本部行ったりして。結果、専門職は育ちにくいかもしれないですね。

坂本:極論、何でもそれなりにしか知らない、会社の中のことだけ詳しいです、みたいな人が育っちゃうと。

濱野:無印良品は多分変わってるんですよね。今のメンバーが感度高すぎて、多分僕いなくてもなんかやってただろうなって。全然別の形だったかもしれないけど「さすが無印良品だね」っていわれることをやってたと思いますね。さっきのムービーも僕自身は全く携わっていないです。直接メンバーがクリエイターの方達とやってました。

向井:それって根本にあるのはなんなんですかね?ブランドを愛するところがあるからですか?

濱野:それもあると思いますけど、もともと無印良品って「オブザベーション」というものをやってるんですよ。実際にお客さんの自宅を訪問して、生活しているところを観察するとかっていうのを、昔から。本当に顧客に寄り添ってて、顧客の変化に敏感なんです。

坂本:IDEO っぽいですね、顧客の観察から入って。

濱野:うん、昔からですね。ネットの時代の前からずっとオブサベーションやってる。ネット関係ないんですよ。

向井:こういうところがもっと増えてきたらいいんですけどね。

濱野:だから再現性ないって言ってるじゃないですか(笑)。

神谷:いやでもやり方が再現性ないだけで、考え方としては再現性高いじゃないですか。

濱野:いやー、ハードル高いですけどね(笑)。で、さっきの話に戻りますけど、現場の感覚って大事だし、ネットってこういうもんだよねっていうのを「店長」の感覚で知ってて、さらに経営者とも話せるって、ハードル高いですよね。でも、現場をゴリゴリにやってたネットショップの店員のほうが、レガシーな会社は変えられそうな気がする。数字の感覚もあるし。

神谷:その辺が立ち上がってくると変わるんでしょうけどけどね。EC 化率 5% とかっていう数字だとなかなか変わらない。

向井:これが発信されてどういう反応になるのか…!楽しみですね。

坂本:濃すぎる、長すぎる、カット箇所多すぎる対談でしたが、非常に楽しかったです。ありがとうございました!


前編はこちら→ 非ゲームアプリの挑戦 - MUJI passport、すかいらーくのケース

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