2017/12/07

個人開発でもここまでできる!新作「Dual Match 3」開発の裏側にあった戦略思想、学習、ローカライズ

ぼく : 伊與田 (いよだ) さん、まずは新作 Dual Match 3 のリリース、および App Store フィーチャー、超おめでとうございます!!

伊與田さん (以下「いよだ」) : ありがとうございます。リリースして、実はレベルデザインどうしようかなと悩んでいたのですが、その間にフィーチャーされてしまいました。

ぼく : フィーチャー "されてしまった" なんて贅沢な(笑)。しかし、昨年 4 月以来の blog 出演ですね。お久しぶりです。

いよだ : お久しぶりになってしまいました。

ぼく : 前作って Dungeon Tiles ですよね。新作リリースはどれぐらいぶりですか?

いよだ : Dungeon Tiles が最後です。前作のリリース日が 2016 年 7 月なので約 1 年 5 ヶ月ぶりになります。ちょっと何してたんだろうって感じですね(汗)


前回のblog記事から

ぼく : ほんとですよ(笑)。何をされていたのですか?

いよだ : Dungeon Tiles の最後のアップデートが 2016 年 12 月 22 日なので、約 5 ヶ月半は前作のメンテナンスとアップデートをしていました。その後、今回の Dual Match 3 を作るためのゲームエンジンに何を使うか検討していました。

ぼく : 休養期間とかはなかったんですね。

いよだ : なかったですね。

開発ツールの変更 - Corona から Unity へ


ぼく : 今回から Corona ではなく Unity で開発されてるんですよね。なんで Unity に変えたんですか?

いよだ : 以前作った Number Balls というタイトルを Corona SDK で開発していたので、Corona SDK も検討していたんですよ。ライセンスを購入していたのですが、次第に「広告を使いたければ別のライセンスが必要」など、納得ができない条件変更が発生して、今後継続して利用するのは好ましくないと判断しました。

ぼく : なるほど。じゃあ今回、Unity の使い方もイチから身につけなきゃいけなかったんですね。

いよだ : そうなんです。2017 年から新しく Unity を使うことに決めたのですが、最初全くわからなかったので、2 ヶ月間勉強する時間を作りました。その間に Unity のマニュアルを読んだり、本を読んだり、チュートリアル動画を見たり、オブジェクト指向や C# の本を読んだりして、Dual Match 3 の設計イメージができるまでひたすらインプットをしていました。

ぼく : なるほど。以前アプリマーケティング研究所の記事にも出てましたが、おそらく金銭的にはそこまで余裕はない中...

いよだ : そうですね、Unity に変えるには学習コスト、時間がかかるので迷いましたが、運良く昨年賞金をいただいたので、Unity に変えるにはこのタイミングしかないと思い変えました。

ぼく : あ、そこで AppLovin の賞金 (※いよださんは昨年 AppLovin が主催する Apple TV アプリ開発コンテストで優勝しました) が役に立ったんですね。よかったです!Unity の勉強は大変でしたか?

いよだ : 結構苦労しました。開発や設計方法が全く異なったので、過去のコード資産や経験があまり役に立たない感じでした。普段あまり本を読まないのですが、多分 3,000 ページぐらいの本や資料を読んだと思います。

ぼく : 3,000 ページ!すごい、、、

いよだ : 残念ながら理解できてないことも多いですけど。

ぼく : で、2 ヶ月の学習期間を経て、新作の開発開始と。

いよだ : 3 月から開発を開始したのですが、初めてのゲームエンジンを利用したので知らないことだらけで大変でしたが、3 週間ほどでプロトタイプを作り、その後デザインの変更、機能追加、品質を上げる作業をしていました。全部で約 9 ヶ月間ぐらい費やしたことになります。

新作「Dual Match 3」とは?


ぼく : そうして作った新作、紹介をお願いします。

いよだ : アプリ名は「デュアルマッチ3 - Dual Match 3 -」といいます。2017 年 12 月 6 日にリリースしました。


デュアルマッチ3 - Dual Match 3 -
iTunes: https://itunes.apple.com/jp/app/id1235387591?mt=8
Webサイト: http://jp.i-yoda.com/press/dual_match3/

ぼく : 名前の通り Match3 (3 つ以上同じ要素をつなげるとブロック等が消えるパズルゲーム) ですね。

いよだ : そうですね。「同じ色のボールを 3 つ以上連続でつなげる」という単純なルールのマッチ 3 ゲームですが、斜め方向につなげることができるので、より多くのルートが作れます。つなぐ順番次第で得点が変化するため、上達するとスコアが大きく伸びます。決められた移動回数内で、全ての色の目標値が 0 になるとレベルアップします。

ぼく : 得点が変化するとは?

いよだ : 同じ色のボールを 3 つ以上つなげると数字の合計値がポイントになるのですが、同じ色で同じ数字を3つ以上つなげるとコンボとなりポイントが 10 倍になります。さらにコンボの数がポイントに乗算されます。


ぼく : なるほど。単純作業ではなく考えないといけないので、飽きずに継続して遊べそうですね。

いよだ : はい。また飽きないための工夫として、今説明したノーマルモードだけでなく、ハードモードも用意しました。

ぼく : え、それ僕やったことない。
(※注 : ぼくβテストに参加していたので、ノーマルモードはリリース前からプレイしていました)

いよだ : ハードモードは、基本ルールはノーマルモードと同じですが、同じ色のボールを 3 つ以上つなげるとポイントの合計値の “キューブ” が発生し、同じ色のキューブを 3 つ以上つなげるとキューブを消すことができます。


ぼく : 消えるまでにワンステップ増えるんですね。

いよだ : はい、キューブが邪魔になるので難しくなりますがキューブを消すと高得点を得ることができます。

ぼく : なるほど、やってみたいな。他にも工夫したポイントはありますか?

いよだ : ゲームの進行を助けるアイテムを 3 つ用意しました。ゲーム終了後にもらえるコインを消費して使うことができます。他には、リプレイ動画やベストムーブを SNS でシェアできたり、色が識別できない方のための色覚サポート機能があったり、カラーテーマが 3 つの中から選べたりといった機能を用意しました。

ぼく : 色覚サポート機能って初めて聞きました。優しいですね。マネタイズは広告だけですか?

いよだ : アプリ内課金もあります。広告削除と、ゲーム終了後に取得するコインが2倍になる特典を課金で売っています。

カジュアルゲームで世界を獲るには?成功例の分析


ぼく : プレイモードを2つ作るとか、課金を入れるとか、非言語で直感的に理解させるデザインとか、個人的にはとても好みだし世界を狙えるポテンシャルあると思っています。打ち手としてとても正しいですよね。やっぱ世界とりたいという思いがあるんでしょうか?

いよだ : 開発を始めた頃から米国をターゲットとして始めました。日本では、ソーシャルゲームが強く、個人開発では作家性が強いものが好まれているような気がします。

ぼく : 確かに、開発者さんの「色」が強いゲームのほうが受けている印象はあります。

いよだ : 私が開発できるゲームはそのような分野が苦手なので、欧米をターゲットとしています。ヒットさせるのは難しいですが、欧米の方がシンプルなゲームでもヒットしています。最近だと Voodoo、ここ 2~3 年では KetchappGram GamesBitMango など、シンプルなゲームでもランキングに常に入っていて、レビューもそれほど悪くないカジュアルゲームがたくさんあります。

ぼく : そのへんは AppLovin でも広告売上上位の常連ですね。

いよだ : ゲームのクオリティ的には個人開発でも可能性があると思うので、それ以外のヒットさせるための施策をどうするかが課題だと思っています。成功の事例も多いのでその辺りを分析すれば確率を上げることはできると思います。

ぼく : どのへんがポイントだと分析されたんですか?

いよだ : シンプルなルールとデザイン、非言語化、10 言語以上のローカライズ、広告+課金、複数のプレイモードは、上記パブリッシャーで共通していることですし、コストもあまりかからず実現可能な要素だと思います。できれば、世界中のユーザーに遊んでいただけるとうれしいです。

ぼく : 的確な分析だと思います。

意外とお金かかってない!?多国語ローカライズの工夫


ぼく : 言語は何ヶ国語に対応されたんですか?

いよだ : 英語、日本語、韓国語、スペイン語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、ポルトガル語、ロシア語、中国語(簡体字、繁体字)、アラビア語です。12 言語ですね。

ぼく : うげぇ、すごい。。。翻訳はどうやったんですか?こんなにたくさんの言語に...。お金もけっこうかかったんじゃないですか?

いよだ :  時間の余裕がなかったですが、ローカライズはどうしてもやりたかったので試してみました。まず英語への翻訳を知り合いのイギリス人の翻訳者の方に頼んで約 ¥10,000。そのあと OneSky っていう多分香港のクラウドソーシング的なローカライズ会社に翻訳をお願いして、¥60,000 ぐらいでした。なので、合計 ¥70,000 ぐらいだと思います。

ぼく : え、意外と安い。1 言語 10,000 円もかかってないじゃないですか。

いよだ : 韓国語は素晴らしい韓国語のローカライズをしている方にしていただけました (※ぼくも知ってる方ですが、まじで素晴らしい方です)。英語の翻訳はプレスリリースの翻訳も含まれています。実際の翻訳文書以外に、用語集・スクリーンショット・スタイルガイド・翻訳してもらう言葉の説明などを求められることがあるので、早めに対応した方が良いと思います。あと各言語ごとの翻訳者から結構質問が来る可能性があります。

ぼく : 翻訳者とのやりとりは日本語ですか?

いよだ : 全て英語でのやりとりになるので、全く英語がわからないっていう感じだとちょっと難しいかもしれません。

ぼく : 貴重な tips ですね。素晴らしい工夫だと思います!

いよだ : 依頼する前に、ローカライズのためのガイド本 (50 ページぐらい) を読んで勉強しました。

Dual Match 3 開発の背景


ぼく : しかし Match3 とは、えらく競争激しそうな領域ですね(笑)。

いよだ : 確かに競争激しいと思います。どこかのサイトで App Store だけでも Match 3 は 2,200 アプリ以上あるって書いてありました(汗)。

ぼく : それはやばい(笑)。しかも大手も多いですよね。King とか、最近だと PlayrixGardenScapes, HomeScapes とか。

いよだ : はい。ただ多くの Match 3は、Candy Crush のような “課金ベース” で “ステージクリア” のパズルだと思います。”広告主体” であったり “ハイスコアを目指す” タイプのカジュアルゲームはあまり記憶がないです。

ぼく : 確かに。そういう意味だとオリジナリティは出せると踏んだわけですね。

いよだ : ただ Match 3 は、”詰んでいるかどうか” の状態を検知するときやゲームバランスの調整に “再帰処理を用いた探索アルゴリズム” が必要になるので、Threes!2048 のようなパズルゲームと比べて開発コストは高いと思います。

ぼく : そんななか、どうしてこのゲームを作ろうと思ったのですか?

いよだ : 2014 年 1 月に同じような “Number Balls” というマッチ 3 パズルをリリースしたのですが、全くダウンロードされませんでした。しかし、周りの評判は結構よかったんですよね。なので、ルール・デザイン・アルゴリズムなどを全て作り直して、よりシンプルなパズルゲームとして開発しました。

ぼく : 原型がもともとあったんですね。デザインとかはどう変えられたんですか?

いよだ : 最初は “Dots” を意識していたのですが、3D で作ることにしたので、特に他のアプリを参考にせずに、良いと思える品質まで何度も変更しました。デュアルマッチ 3 という “ゲーム性” がアピールしたいポイントなので、好きなデザインを選べるようにテーマを用意しました。

ぼく : なるほど。ある意味、参考にするものがない状態って、イチから作る苦しみとかありますよね。

いよだ : そうですね。今までは 2D だったのでイラストレーターで画像を作ればよかったのですが、3D で開発したので思ったような色や質感が出なかったりと苦労しました。

今風!AI (人工知能) を使ったゲームバランス調整


ぼく : デザインのところはどれぐらい内製で、どれぐらい外部に投げてるんですか?

いよだ : エフェクトだけ、Unity の Asset Store で購入したものをカスタマイズして使っていますが、それ以外は内製です。といっても、ボールとキューブは Unity に初めから用意されているものに色の設定をし、購入したアセットのノーマルマップを適当に利用した感じなので、自分で 3D のモデリングとかはしていないです。

ぼく : そうなんですね。あと、開発中 Facebook で post されてましたが、ゲームバランス調整で AI にプレイさせてたじゃないですか。

いよだ : はい、やってました。これとかですね。

ぼく : あれはどうやって作ったんですか?内製ですか?そういうツール・サービスがあるんですか?

いよだ : 内製です。ヒント表示用に、経路検索のアルゴリズムと、ボールをつないだラインをアニメーションで表示する部分は開発していたんですよ。それを自動で動かして、ゲームオーバーしたら自動でリトライするように作っています。

ぼく : あー、なるほど。どれぐらい賢いんですか?

いよだ : 単純に経路検索をして得点が高いと思う経路を選択しているだけで、先読みはしていないため、人よりは賢くないと思います。先読みをすると計算量が多すぎて厳しいです。ただ、ゲームバランスのために利用するには、一定のアルゴリズムで動作するメリットもあると思います。

ぼく : それはどういう点ですか?

いよだ : パラメーターを変更した時に、クリア率やコンボ率がどのように変化するか?など数値である程度判断することができます。

ぼく : なるほどねぇ。人間にプレイさせると、けっこう数こなさないと統計的に正しいかどうか判断できないですもんね。

いよだ : そのあたり、数値では直感的にわかりにくいところは、Web でレポートをグラフで表示できるように開発しました。これも内製です。





ぼく : すげぇ...。毎回話聞いて思うんですが、個人でやってるとは思えない開発プロセスの洗練度合いですね。

最後に


ぼく : ズバリこのアプリの手応えは?どれぐらい狙っていますか?

いよだ : 予測は難しいですね。理想は、30 万 DL とか欲しいですが、アップルにフィーチャーされないと現実は、数千 DL ぐらいだと思います。フィーチャーされても DL 数が伸びるかどうはわからないので運次第って感じです。収益性は常に課題ですが、今回も低いと思います。パズルで非消費アイテムをたくさん活用できる案があると良いのですが。。。

ぼく : いやでも僕自身触っててかなり品質高いと思うので、フィーチャーもですが、アプリ自体の継続率や収益性をもっと高めて、プロモーションとかにもチャレンジしたいですね。本日はどうもありがとうございました!

Q

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